暖かくなるこの時期。どっさり抜ける飼い猫の毛を利用した手芸「猫毛フェルト」が愛猫家の間で広がっている。人と猫とのコラボレーションアートの世界とは−。
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トラ、ブチ、黒…。さまざまな色柄の小さな猫人形を手に取ると、ほこほこリアルな猫の感触。さすが猫毛100%だ。2月、東京都杉並区の「茶房高円寺書林」で開かれた「猫毛祭り」会場には60点以上の猫毛フェルト作品が並んでいた。肉球や猫の顔を再現した携帯ストラップ、フェルトでワンポイントを入れたバッグなど身近で使えそうなものばかりだ。
猫の毛を弱アルカリ洗剤でこすり、キューティクルを絡ませて圧縮させたフェルトが基本。考案者の蔦谷香理(つたや・かおり)さんは「理屈は羊毛フェルトと同じです。猫の抜け毛でもつくれないかと思いつき、試しに作ってみたら拍子抜けするほどラクにできた」という。においも脂分も少ない猫毛は意外にも手芸素材に向いていたのだ。
このアイデアには来場者も興味津々。三毛猫を飼っている会社員の斧しず香さん(33)は「発想に驚いた。かわいがっている猫の毛なら愛着もひとしお。頻繁にブラッシングしてあげて作ってみたい」。同行の陶芸作家、松田剣さん(32)も「実は何かの素材にできないかと飼い猫の毛をためていたんです。フェルトという方法があると知ってワクワク。目を陶器で焼いて等身大の猫なんていいなぁ」と目を輝かせていた。
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蔦谷さんの本業は食品系のライター。5年前から趣味で猫毛フェルト作品をつくり、メールマガジン「猫のおきて」で発表。昨年発行した、作り方などを紹介する「猫毛フェルトの本」(飛鳥新社)が3刷2万部と人気を集め、2月、第2弾も発行された。担当編集者の五十嵐麻子さんは「企画を聞いたときは、えー!?そんなエタイの知れないモノ…と思いましたが、作品を見たらかわいくて」。
毛を提供した猫が多数紹介され、猫写真集としてもなごめる。読者はがきの反響も心温まるものばかりだ。「結婚して実家を離れるので、猫毛フェルトを持って嫁ぎます」「いつかお別れの時がくる。その日のために作っておきたい」−。蔦谷さんのもとには講師依頼が続々舞い込み、今月だけでも東京のカルチャーセンターや猫カフェなど5カ所でワークショップを開催。抜け毛提供組織「チーム猫毛」も会員37人、猫67匹、特別参加の犬2匹にまで増えており、活動の輪が広がっている。
「飼い主がブラッシングして集めた猫毛は、猫が愛され大切に世話されていることの証し。猫毛フェルトがブラッシングのきっかけになり、猫の健康増進につながればうれしい」と蔦谷さん。猫毛祭りのバザー収益金は地域猫支援団体に寄付された。
一見キワモノみたいだが、人と猫との大まじめな愛の絆(きずな)が、フェルトの中に織り込まれていた。(重松明子)
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